2013年5月31日金曜日

11.空間の利用

○老子の原文を道具として解釈したもの

 馬車の車輪は、三十本の棒が同じ長さで円
(まる)い枠を支えている。だから何もない円
の中心に軸を取り付けられ安定して回転する。
 土をこねて器を作る。
 器にくぼみがあるから物が入れられる。
 洞穴を掘って部屋を作る。
 部屋に何もないから入れる。
 何もないことを利用すれば役に立つことも
ある。


○老子の読み下し文

 三十輻(ふく)、一轂(こく)を共にす。
 その無に当たりて、車の用有り。
 埴(つち)をこねて、器をつくる。
 その無なるに当たりて、器の用有り。
 こゆうを鑿(うが)ちて室をつくる。
 その無なるに当たりて、室の用有り。
 故に有の以て利をなすは、無の以て用をな
せばなり。


○老子の原文

 三十輻共一轂。
 当其無、有車之用。
 セン埴以為器。
 当其無、有器之用。
 鑿戸ユウ以為室。
 当其無、有室之用。
 故有之以為利、無之以為用。

2013年5月30日木曜日

10.反省

○老子の原文を道具として解釈したもの

 目標に向かってまい進しているだろうか。
 初心を忘れていないだろうか。
 自分を裏切るようなことはしていないか。
 まともな社会に暮らしているだろうか。
 何事にも対応できる備えがあるか。
 才能をひけらかして、目立っていないか。
 自然は生み出し育てるが、所有も支配もし
ない。
 だから慕われる。


○老子の読み下し文

 営魄(えいはく)を載せ、一を抱き、能く離
るることなからんか。
 気を専らにし柔を致して、能く嬰児(えいじ)
たらんか。
 玄覧(げんらん)を滌除(てきじょ)して、能
く疵(そこな)うことなからんか。
民を愛し国を治め、能く無為ならんか。
 天門開闔(てんもんかいこう)して、能く雌(し)
とならんか。
 明白四達にして、能く知らるることなから
んか。
 これを生じこれを畜(やしな)い、生じて有
せず、なして恃(たの)まず、長じて宰(さい)
せず。
 これを玄徳(げんとく)と言う。


○老子の原文

 載営魄抱一、能無離乎。
 専気致柔、能嬰児乎。
 滌除玄覧、能無疵乎。
 愛民治国、能無為乎。
 天門開闔、能為雌乎。
 明白四達、能無知乎。
 生之畜之、生而不有、為而不恃、長而不宰。
 是謂玄徳。

2013年5月29日水曜日

9.引き際

○老子の原文を道具として解釈したもの

 執着し、独り占めすれば滅ぶ。
 鋭い物でもやがては鈍くなる。
 宝を蔵にしまいこんでは、価値がない。
 裕福になって威張っていると不幸を招く。
 やることをやったらさっさと身を引け。


○ 老子の読み下し文

 持(じ)してこれを盈(み)たすは、その已(や)
むるにしかず。
 揣(う)ちてこれを鋭くするは、長く保つべ
からず。
 金玉 堂に満つれば、これを能く守るなし。
 富貴にして驕(おご)れば、自らその咎(とが)
を遺(のこ)す。
 功遂げ身退くは、天の道なり。


○老子の原文

 持而盈之、不如其已。
 揣而鋭之、不可長保。
 金玉満堂、莫之能守。
 富貴而驕、自遺其咎。
 功遂身退、天之道。

2013年5月28日火曜日

8.水形

○老子の原文を道具として解釈したもの

 理想的なのは水だ。
 水はよく利用され、遠ざけられることがな
い。
 場所を選ばず存在している。
 だから道とよく似ている。
 地のいたる所にあり、形を場所に合わせて
変化させ、何にでも混ざるが、性質は変わら
ず、表面は静かだが、内面は活発で、いざと
なったら他の物も動かす。
 水は無欲だから、受け入れられる。


○老子の読み下し文

 上善は水のごとし。
 水は万物を利して争わず。
 衆人の悪(にく)む所にいる。
 故に道に幾(ちか)し。
 居には地を善(よ)しとし、心には淵(ふか)
きを善しとし、与(とも)にするは仁を善しと
し、言には信を善しとし、正には治を善しと
し、事には能を善しとし、動には時を善しと
す。
 それただ争わず、故に尤(とが)なし。


○老子の原文

 上善若水。
 水善利万物、而不争。
 処衆人之所悪。
 故幾於道。
 居善地、心善淵、与善仁、言善信、正善治、
事善能、動善時。
 夫唯不争、故無尤。

2013年5月27日月曜日

7.永く保つ秘けつ

○老子の原文を道具として解釈したもの

 自然は永遠だ。
 自然が永遠なのは、子孫を生み出す必要が
ないからだ。
 だから死ぬことはない。
 聖人は世襲にせず、自分の身を投じ、家族
だけを重んじることなく、外部に目を向ける。
 血筋に囚われることがないから、権力を保っ
ていられる。


○老子の読み下し文

 天は長く地は久し。
 天地の能く長くかつ久しきゆえんの者は、
その自らを生ぜざるを以てなり。
 故に能く長生す。
 ここを以て聖人は、その身を後にして身は
先んじ、その身を外にして身は存す。
 その無私なるを以てにあらずや、故に能く
その私を成す。


○老子の原文

 天長地久。
 天地所以能長且久者、以其不自生。
 故能長生。
 是以聖人、後其身而身先、外其身而身存。
 非以其無私耶、故能成其私。

2013年5月26日日曜日

6.無尽蔵

○老子の原文を道具として解釈したもの

 地中のマグマは尽きることがない。
 これを大地の母と言う。
 火山の口を大地の子宮と言う。
 いくらでもあり、使ってもなくならない。


○老子の読み下し文

 谷神(こくしん)は死せず。
 これを玄牝(げんぴん)と言う。
 玄牝の門、これを天地の根と言う。
 緜緜(めんめん)と存するがごとく、用いて
動せず。


○老子の原文

 谷神不死。
 是謂玄牝。
 玄牝之門、是謂天地之根。
 緜緜若存、用之不動。

2013年5月25日土曜日

5.無分別

○老子の原文を道具として解釈したもの

 自然は善も悪も、あるがまま生み出す。
 聖人は人々を分け隔てなく扱う。
 自然は「ふいご」のようなものか。
 空っぽだけど、動かせばいくらでも空気
(生命)が出てくる。
 情報が多いと混乱する。
 心を自由にし、自分を見失わないようにし
なければいけない。


○老子の読み下し文

 天地は不仁なり、万物を以て芻狗(すうく)
となす。
 聖人は不仁なり、百姓を以て芻狗となす。
 天と地との間は、それ猶(なお)タク籥(やく)
のごときか。
 虚にして屈せず、動きていよいよ出(い)ず。
 多言なればしばしば窮す。
 中を守るに如(し)かず。


○老子の原文

 天地不仁、以万物為芻狗。
 聖人不仁、以百姓為芻狗。
 天地之閒、其猶タク籥乎。
 虚而不屈、動而愈出。
 多言数窮。
 不如守中。

2013年5月24日金曜日

4.無限のつながり

○老子の原文を道具として解釈したもの

 道そのものには何もないけれど、無限に続
いている。
 自然に終わりがないようなものだ。
 険しさもなだらかにし、迷いをなくし、景
色をあらわにし、真実を見せる。
 なにものにも動じず、存在している。
 自然に先駆けてあるのかもしれない。


○老子の読み下し文

 道は冲(ちゅう)なれども、これを用うれば
或いは盈(み)たず。
 淵(えん)として万物の宗に似たり。
 その鋭を挫(くじ)き、その紛を解き、その
光を和らげ、その塵(ちり)に同ず。
 湛(たん)として或いは存するに似たり。
 われ誰の子なるかを知らず、帝の先に象(に)
たり。


○老子の原文

 道冲而用之或不盈。
 淵兮似万物之宗。
 挫其鋭、解其紛、和其光、同其塵。
 湛兮似或存。
 吾不知誰之子、象帝之先。

2013年5月23日木曜日

3.争いの素

○老子の原文を道具として解釈したもの

 人に優劣をつけなければ争わない。
 宝物を自慢しなければ、盗まれることはな
い。
 欲望を刺激しなければ、心を乱すことはな
い。
 だから聖人の政治は、人々を平等に扱い、
利益を分配し、倹約に努め、結束を強くする。
 常に人々に目標を示し、それに向かって一
心不乱に行動するように働きかける。
 自然の流れに逆らわなければ、政治は乱れ
ることはない。


○老子の読み下し文

 賢をたっとばざれば、民をして争わざらし
む。
 得難きの貨を貴ばざれば、民をして盗みを
なさざらしむ。
 欲すべきをしめさざれば、民の心をして乱
れざらしむ。
 ここを以て聖人の治は、その心を虚しくし、
その腹を実たし、その志を弱くして、その骨
を強くす。
 常に民をして無知無欲ならしめ、かの知者
をして敢えてなさざらしむ。
 無為をなせば、即ち治まらざる無し。


○老子の原文

 不尚賢、使民不争。
 不貴難得之貨、使民不為盜。
 不見可欲、使民心不乱。
 是以聖人之治、虚其心、実其腹、弱其志、
強其骨。
 常使民無知無欲、使夫知者不敢為也。
 為無為、則無不治。

2013年5月22日水曜日

2.相反するもの

○老子の原文を道具として解釈したもの

 みんなが「綺麗にしよう」と言っているの
は醜いところがあるからだ。
 みんなが「善をおこなおう」と言っている
のは悪いところがあるからだ。
 同じように、有無、難易、長短などの相反
するものがあり、高下のような傾きがあり、
音と声は混ざることはなく、それに前後の区
別もある。
 だから聖人と言われる人は、自然のあるが
ままを受け入れ、人の言っていることに惑わ
されない。
 自然はすべてを受け入れるが独占せず、循
環させ、淘汰する。


○老子の読み下し文

 天下皆美の美たるを知るは、これ悪のみ。
 皆善の善たるを知るは、これ不善なり。
 故に有無は相生じ、難易は相成し、長短は
相形し、高下は相傾き、音声は相和し、前後
は相随う。
 ここを以て聖人は無為の事におり、不言の
教えを行う。
 万物おこりて辞せず、生じて有せず、なし
て恃(たの)まず、功成りて居らず。
 それただ居らず、ここを以て去らず。


○老子の原文

 天下皆知美之為美、斯悪已。
 皆知善之為善、斯不善已。
 故有無相生、難易相成、長短相形、
 高下相傾、音声相和、前後相随。
 是以聖人処無為之事、行不言之教。
 万物作焉而不辞、生而不有、
 為而不恃、功成而弗居。
 夫唯弗居、是以不去。

2013年5月21日火曜日

1.認知

○老子の原文を道具として解釈したもの

 道はない。
 名前もない。
 もともと名前なんてなく、人が名前をつけ
て物の区別ができるようになった。
 それと同じように、道のないところを人が
歩いたから道となり区別できるようになった
のだ。
 区別できるようになったのは人の知恵(動
作)であり、自然が変化したわけではない。
 人が知恵を働かせる以前から自然の道理は
変わらず続いている。


○老子の読み下し文

 道の道とすべきは、常(つね)の道にあらず。
 名の名とすべきは、常の名にあらず。
 無名は、天地の始めなり。
 有名は、万物の母なり。
 故に 常に無欲にして、以てその妙を観(み)、
常に有欲にして、以てその徼(きょう)を観る。
 この両者は同じく出で、名を異にし、同じ
く之を玄(げん)と謂う。
 玄の又玄、衆妙の門なり。


○老子の原文

 道可道、非常道。
 名可名、非常名。
 無名、天地之始。
 有名、万物之母。
 故常無欲、以観其妙、
 常有欲、以観其徼。
 此両者、同出而異名、同謂之玄。
 玄之又玄、衆妙之門。

2013年5月20日月曜日

はじめに

 中国の古典で有名なものに「孫子」がある。
 孫子は、戦国乱世を生き抜く知恵を書き記
した兵法書だが、今でもビジネス書に混じっ
て解説本が何冊も出版されるほど、会社経営
のバイブル的存在になっている。ただし、私
が「逆境に勝つ孫子」に書いたように間違っ
た解釈の孫子であり、実践で使うと逆に損害
がでるので注意する必要がある。

 孫子と同じぐらい示唆にとんだ古典が「老
子」なのだが、どの解説書を読んでも精神的
なことしか書かれておらず、理解し難く、孫
子ほどの注目はない。

 では孫子と老子では何が違うのか?

 孫子は、具体的な内容が書かれているいわ
ば道具。それに比べ、老子は抽象的な内容が
書かれている材料のようなものだ。
 だから老子の解説書を読んだだけでは、ど
う応用すればいいのか分からず、役に立たな
いのだ。

 道具はすぐに使えて便利だが、使う人が道
具にあわせなければならず、道具に慣れる必
要がある。
 材料は自分で道具にしなければならないが、
どんな道具でも作ることができ、自分にあっ
た道具にすることができる。
 そこで、老子という材料を道具として解釈
してみた。
 すると呪術のような強大な力を秘めている
ことが分かった。ただし、呪術といっても呪
いのまじないではなく、自然の力を利用して
役に立てようとするシャーマニズム(シャマ
ニズム)のようなものだ。

 ここに書いた道具を利用するのもよいし、
参考にして自分の知識や経験をもとに、自分
にあった道具を作れるようになれば、自然の
力を味方につけて、孫子以上に役立てること
ができるようになるだろう。
 推理小説の暗号を解くのに似て、頭の体操
にもなる。

 では始めよう。